会いたいと泣いた声が

今も胸に響いてる





オ レ ン ジ の 手 紙




この間まで寒くてコートが手放せなかったと言うのに、気が付けば今はもう薄手の長袖一枚で十分な季節になっていた。
時が過ぎるのは早い――なんて、小説か何かの冒頭にでも出てきそうだけど、こういうとき、僕はそれを実感する。





あれからもう、3年の月日が流れた。





行く宛てもなく、僕は自転車をこいでいた。
一生懸命動かす足、速くなる自転車、そしてびゅんびゅん受ける暖かい春風。
時々受ける、夕方独特の冷たい風。
風に乗って、春の匂いがする。
あの、自然の匂いというか、なんというか…桜の匂いだろうか。
空には、オレンジ色の夕日がゆっくりと沈んでいく。



あれからもう、3年だ。



僕は、大学4年生になった。
今や当然ながら、すっかり一人前の大学生で(と言うと親父は「お前はまだまだだ」と馬鹿にする。いつまで"まだまだ"なんだろう)来年は社会人一年生だ。
相変わらずカレー作りは下手で、妹には「お兄ちゃん駄目!」と、姉には「直のカレーは、相変わらずだね」と言われたりもするけど、それでも毎日頑張ってる。
親父は・・・多分何も変わっていない。
お好み焼きを毎日焼いて、お茶出してお菓子出して、唯一変わったことと言えば、オリジナルお好み焼きで最近は人気作品も生まれるようになったことだ。
親父も多少はセンス良くなったのだと、僕は信じたいけど。
それでも未だ「フルーツ焼き」のような大不人気作品もよく生まれる。
大方8割は、こっちだ。
そしてそのたび、僕たち家族は被害にあう。
家に帰って親父がニコニコ笑いながら頼むような表情で見てきたら、それは間違いなく災害の前触れだ。
母さんがいたら、ニコニコ笑って、またやっちゃったね〜。でも失敗は成功の母なのよ!次、次!とでも言ってる気がする。
瑠奈は、小学校5年生になった。
今や一家で一番しっかりしているぐらいで、洗濯も炊事も、一通りこなせてしまう。
でも誰よりも強がりで、でも泣き虫で・・・そんなところは変わっていない。
瑠奈のカレーは、家の誰よりも美味しい。
家の誰よりも、母さんの味に近い気がする。
そう、瑠奈といえば・・・この間あるものをもって僕の部屋に来た。
「お兄ちゃん、これ見て。友達に借りたの」
それは、一枚のCDだった。
「その曲のね、2曲目がすごく好きなの」ということだった。
僕は、早速CDコンポに入れ、CDを流した。



…確かにそれはすごくいい曲で。
瑠奈が何でいいと言うのかもよく分かった。
そして僕は、この曲がいいと言えるようになるほど、僕たちの傷は、時間の流れが癒してくれたのかもしれないと、同時に思う。
―――なんて、ちょっとカッコつけかもしれないけど。

今も、自転車に乗りながらかけている。
オレンジに染まる空に、夕日に、向かいながら。
あの日のことを、あの夏のことを、そしてその中で出会った様々な思いを、振り返りながら。







お元気ですか。
僕たち家族は相変わらず、馬鹿やってます。
時間だけが癒してくれる傷を、消えることない傷を抱えながら。
もし今度この町に来ることがあったら、絶対にお好み焼き食べに来てください。
新しいメニューの『太陽焼き』、ごちそうします。
それから、約束だった旅行でもしませんか。
瑠奈も姉も親父も、きっと大喜びで賛成してくれると思います。





今、あなたはどこにいますか。



そこで、何をしていますか。



でも、あなたがどこにいても、何をしてても



僕は、この夕日でつながっていると信じています。

今見ているこの夕日を、あなたもどこかで見ていると信じています。



今日も明日も明後日も、ずっとずっと・・・







人波の中でいつの日か

出会えることがあるのなら





その日まで







僕の正義の味方だった桐野セツさんへ



*end*



あとがき





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