エイプリルフールのススメ
2・ランチの女王は4月1日も平和?
*鍋島家仮家長・鍋島勇二郎編*
世間では、今日から新しい年度で色々とあるようだが、うちは今日もいつもと変わらない。
誰の誕生日なわけでもないし、休みのわけでもない。
今日も俺たちは朝からランチのために、一所懸命働かなくてはならないんだ。
そうやってできた自信とデミグラスソースたっぷりのランチを食べて、
新年度で頑張っている方々に少しでも幸せな時間を見つけてもらえたら・・・
これ以上俺たちの喜びはない。
・・・まあ本当にランチを一回食べただけで幸せになれるやつといえば、あいつ・・・・
いや、麦田なつみさんぐらいしかいないだろうが。
「みんなおっはよ〜!今日も野菜、持ってきたからね。」
今日も朝からキッチンには、裏口からとまちゃんこと塩見トマトの元気な声が響く。
こいつは朝からこんな大量の野菜を持ってきて、なんで元気なんだ・・・ともたまに思うが、
それは助かっているので気にしないことにする。
「さんきゅー、とまちゃん。あ、じゃあそこ置いといてくれる?」
純三郎は作業する手を止めて、トマトのほうを向く。
おーい!お楽しみの時間は少しにして、ランチの準備しろよ!!間に合わなくなるぞ。
「はいはい。純ちゃん、それより勇兄いない?」
「えーと、勇兄ね。ゆーにぃー、とまちゃんが呼んでるけどっ。」
え?俺か?でも・・・今はなぁ・・・
「あ、とまちゃん・・・何?・・・今・・・ちょっと準備に忙し・・・いんだ・・・けど。」
俺はビシソワーズ作りに忙しくて、それどころではない。
なんとかトマトに、話をあとまわしにしてもらえるよう、さりげなく頼んだが・・・
「うん、分かった。じゃあ手短に済ますから早くっ!」
・・・トマトには全く通じてないらしい。
しょうがなく俺は、裏口から出て、トマトの話を聞くことにした。
「ねえ勇兄、今日が何の日か知ってる?」
今日が何の日かって?だから新年度の始まりなんじゃないのか?
「新年度の始まりの日。」
「ちっがうよ、全く〜。今日はね、一年で嘘をついても怒られない日、エイプリルフールだよ!!」
「エ、エイプリルフール?」
俺はちょっとだけ驚いた。え、えいぷりるふーる?たったそれだけのために呼び出したのか!?
「あ、あの・・・とまちゃん?俺・・・ランチの準備が・・・」
お願いだからキッチンへ帰してくれ!!ランチの準備が終わらない!!!!
俺は切実に願った。だが・・・トマトは聞く耳を持たない。
「分かってる、それは分かってるよ、勇兄!でもね・・・この日を利用しない手はないんじゃない?」
利用・・・・?何を考えてるんだ塩見トマトは。
「り、利用って・・・・」
「だって勇兄、好きなんでしょ。なっちゃんのことが。」
・・・・?
お、おれがあいつ・・・じゃなくて、麦田なつみさんのことが好きだと!!?
それがどういう関係があるっていうんだ!!ていうより、それは・・・
「いや、とまちゃんそれは誤か・・・」
「別に恥ずかしがらなくてもいーよ!知ってるんだから。」
・・・確かにな、確かに麦田なつみに対しては、普通の女とは違う感情を持ってるかもしれないが・・・
「だからね、今日、嘘が許されるこの日こそ、なっちゃんに『好きです!』って言うのよ。
それでもしなっちゃんにふられるようなことがあれば、『嘘でした』って言えばいいでしょ?ど、この計画?」
ど、この計画?も何もないだろ!!!!全く・・・・
でも・・・いつも純三郎に先を越されてばっかりで、なかなかそういうことを聞けないし、いいかもしれない
・・・・って俺、何考えてるんだ!!?
「あ、あの・・・塩見トマトさん?別に、俺は・・・」
「ふっふっふ・・・今勇兄少しだけいいかも、って思ったでしょ?」
「そ、そんなこと・・・」
「じゃあ今の間は何だったのかな〜?」
こ、こいつには勝てない・・・・
もうこういうしかないのか・・・・
「・・・まあ、試さないこともないが・・・」
俺はしょうがなく答えた。だって、このままでは、この塩見トマトの呪縛から離れられない。
「よーし頑張ってね、勇兄!あ、じゃあ今すぐなっちゃん呼んでくるから!」
「え、あ、いい!!いいから!!」
「も〜、任せておいてよ!」
そういうとトマトは駆け足でキッチンに入って言った。
・・・・何なんだ、この嵐のような一日は。
「勇二郎さん、とまちゃんに話があるって言われたんだけど・・・なんですか?」
麦田なつみさんはすぐにキッチンから来た。
・・・くそう・・・俺はこういうのに慣れてないんだよ。
「・・・どうか、しました?」
あ、しまった黙ってるんじゃ変に思われる。
何か・・・何か言わなくては・・・・
「その・・・麦田・・・なつみさん?」
「は、はい・・・・」
えーと・・・・えーと・・・今、ここで『好きです』なんて・・・そんなこと・・・
俺はふと、キッチンの方を見た。そこでは、トマトが楽しそうにこっちを眺めている。
く・・・いいよな・・・楽なもんで・・・
「勇二郎さん、あのー・・・」
麦田なつみさんは、どうかした?という顔でこっちをじっと見ている。
・・・笑顔いっぱいのこいつにも、つらい過去があるんだよな・・・
俺は、ふいにこいつの顔を見て、思い出してしまった。
去年の8月に聞かされた、こいつの過去。
前科があるとか言ってたっけ?
俺らはそれを知っても、こいつを受け入れることにした。
まあ最初は、本当になんでうちにやってきたのかもよく分からなかったけど。
でも、今は・・・・
今は・・・
「麦田・・・なつみさん・・・」
俺は決意した。
言おう。
その答えが、前と同じであっても。
やっぱり、前に進めなかったとしても。
「はいっ・・・」
「その・・・あなたのことが・・・」
「・・・」
「あなたのことが・・・俺は好きです!」
「勇二郎さん・・・・私」
「勇兄!ランチの準備中に言うなんて卑怯だぞ!!!」
キッチンから純三郎が出てきた。うわ・・・やばいぞ・・・
「おっ!勇兄もなかなかやるじゃん?」
さらに光四郎も出てきた。
この状況は・・・かなり・・・・
「じ、自分は、なかなかこんなこと言えないっス!」
見習いのミノルまで・・・おい!みんな、ランチの準備しろ!!!
「私っ」
なつみさんは何か言おうとした。
答えは・・・答えは・・・
「な、なつみさんそれ以上言わないで!!」
「純兄うるさいよ!なっちゃん、さあ答えを!」
「じ、自分も是非聞きたい・・・っス」
「おい、お前らランチの準備はどうしたんだ!?」
裏口前は、5人もいて、ごったがえしている。
あー・・・答えは何なんだ、答えは!!
「私も・・・勇二郎さんのことが好きです。」
・・・え?本当か?本当なのか??
「そ、そんなぁ・・・・」
「純兄、終わったね。ま、あんまり気にすんなっ!」
光四郎は純三郎を励ましている。
まあ純には悪いことをしたが・・・・
これで俺も・・・
「・・・ていうか、私、勇二郎さんも純三郎くんも光四郎くんも、ミノルくんも、とまちゃんも、
まあ一応健一郎さんもみんなみんな好きです!」
・・・・・・
・・・は?
麦田・・・なつみさん?
俺はマジで告白したのに、その答えって・・・
「私、みんな大好きです!なんかみんなもう家族みたいに思えちゃって・・・
すごい自分勝手なこと言ってるってことは、よく分かっています!でもっ・・・でもっ・・・・」
なつみさんは、すごく困ったような顔をして、すごく困ったような声で言った。
・・・そうだよな・・・もうかれこれ8ヶ月も一緒に住んでんだから。
「なつみさん・・・」
純三郎も、その答えに納得したようだった。
「なっちゃんらしーと言えば、なっちゃんらしい答えだよね。」
光四郎も。
「も〜、なっちゃんてば〜!!」
塩見トマトも。て、こいついつのまに外出てたんだ?
「本当にごめんね・・・」
麦田さんの顔が本当に落ち込んでいるように見えた。
好きな女が、こんな悲しい顔してるっつーのに・・・このままほっておけるか。
「別に・・・いいんだ。」
本当は全然よくないが・・・でもとりあえずはしょうがない。
「それより、みんなランチが近いぞ!急いで準備な!」
「おう!」
「分かりました!」
「じゃ、俺は遊びいってこよー!」
「こら、光四郎!!」
「純兄なんかに捕まるか!」
いつもの通りのうちの風景。
これでいいんだよな、これで。
「ごめんね、勇兄・・・」
塩見トマトは静かに言った。
全く・・・・
「いや、とまちゃん別にいいよ。おかげで、あいつ・・・いや、なつみさんの気持ちも分かったんだし。」
「勇兄・・・」
「それより、野菜運ぶの手伝ってくんない?」
「うん、分かった。」
俺とトマトは二人で野菜をキッチンに運び込むことにした。
しかし、それだけじゃあ終わらなかったんだ。
「勇兄!」
「・・・お、純三郎。何、どーしたんだ?デミグラスソースの準備、頼んだぞ。」
「俺・・・俺・・・勇兄には負けないからな!!」
そう言って純三郎はデミグラスソースの前に走っていった。
純三郎・・・俺だって、負けないからな!
そう誓って、さっさと野菜を運び込むことにした。
*end*
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